ハシゴで美術館巡り[2]~わが青春の「同棲時代」上村一夫×美女解体新書展
さてさて、都内展覧会をハシゴする企画、後編です。
前回の記事の日比谷図書文化館『祖父江慎×コズフィッシュ展』を後にして、そそくさと根津は弥生美術館の『上村一夫展』を目指します。
ルート検索をしてみたら、弥生美術館へは都バス「東大構内」が近いのが判明。
それを知って、この日は都営一日券700円を購入し回ることにしました。
日比谷図書文化館からは都営三田線内幸町駅に入り、春日で大江戸線へ乗り換え。
上野御徒町で都バス「都01」系統に乗り換えるルート。
実は大江戸線の本郷三丁目駅から徒歩で東大キャンパスを縦断して行ってもいいんじゃね?
とも思ったんですが、まァせっかく一日乗車券もあることだし、利用するテはないということで。
弥生美術館は東大弥生門を出てすぐ斜向いにありました。
現在弥生美術館では上村一夫展とともに大正~昭和期の絵師・高畠華宵の作品も展示。
なんだかこのラインナップだけでこの美術館がどんな方向性なのか判るような気も。
展示はデビュー前夜の広告代理店でデザイナーとして働いていた時の貴重な作品から始まり、そこで出会った阿久悠とのコラボレーション、『同棲時代』の時代、上村作品を彩った様々な女性たちを列挙し、上村自身の生い立ちを経て自伝的作品『関東平野』へと至っていく構成。
没後30年を記念しての回顧展とのこと。
て言うか、もう30年も過ぎてしまったのか…。
陳列作品から見えてくるのは、上村の画面構成の巧さ。
特に書き込みが凄い、というわけではないのだけれど、白い紙の上に人物がぽつん、と配置されることで何も無い余白に”間”が生まれ、えも言われぬ味わいを醸し出します。
また元々デザイナーであったルーツを匂わせるグラフィカルな効果やコマ割。
すげェ、と唸ることしきりで、丸一日いても飽きないくらい刺激的でした。
マジで毎日でも通いたいくらい。
展示で初めて知ったのだけれど、上村は晩年、竹久夢二を題材にした作品を執筆していたとか。(急逝により未完)
この美術館とはあながち縁がなかったわけではないんですね。
僕にとっての上村一夫は、「劇画」というカテゴリの中でも林静一と同じ場所に分類されるような存在。
叙情性の強い作風、といった印象。
けれど、どこかで軽やかさやポップさが見え隠れする林と比べ、上村は澱のように溜った情念がドロドロと蠢くようで、正直云って自分にとって、若い頃は「怖い」「苦手」な絵柄の描き手の一人でした。
その「怖さ」ってどこからくるんだろう、と考えたところ、上村の描く女性たちの、あの刺すような眼差しにあったと思うんです。
それでもどうしても惹きつけられる妖しい魅力。
三十路も近くなる頃から、次第に好きになっていきました。
ちなみに林静一はそれ以前から好きなんだけれども。
ま、今回は林静一やあがた森魚の話じゃないので、この話題はいずれまたの機会に詳しくするとして、上村一夫の話。
とはいっても、実際のところは林も上村も、自分にとっては劇画そのものよりもその映像化されたものを入口として次第にハマっていった、という感じが強い。
例えば林静一にすれば(『小梅ちゃん』のキャラクターやNHK「みんなのうた」のアニメなんかは見て育ってきたけれど)先ず最初のきっかけは、『赤色エレジー』を流行歌にしたあがた森魚が林のそれを原作に監督した『僕は天使ぢゃないよ』がきっかけだった、と云えるし、上村に至っては梶芽衣子主演の『修羅雪姫』や由美かおるが今日子を演じた映画『同棲時代』、更にはTVドラマ『悪魔のようなあいつ』や寺山修司の映画『上海異人娼館』などのコミカライズ版を上村が手がけていたことを知り書籍を買い漁ったり…などといった出逢いが自分にとって嚆矢だったと云えるだろう。
僕は天使ぢゃないよ [DVD]
悪魔のようなあいつ (上) (ニュータイプ100%コミックス―comic新現実アーカイブス)
『同棲時代』の説明パネルに依れば、この作品は「『赤色エレジー』のパロディを描こうと思った」ところから端を発した、とのこと。
上村は林静一に対し、おそらく嫉妬を抱いていたんじゃないのかなあ。
じっさい、上村は後に『サチコの幸』というタイトルの作品も発表している。
「サチコ」=「幸子」といえば、
♬幸子の幸は何処にある
と唄った、あがた森魚『赤色エレジー』の歌詞そのものである。
…あ、また林静一に寄ってっちゃった。
改めて、大信田礼子の唄う『同棲時代』のイメージソングを。
上村も林も、’70年代を象徴する絵師であるのは疑いがないと思ってるのだけれども、林静一がポップに寄っていったのとは違い、上村一夫は情念の画家となっていった、と個人的には感じている。
それは、両者に寄り添ってきたミュージシャン(の系譜・系統)が、林がその『赤色エレジー』を題材にしたレトロポップな歌を発表したあがた森魚であるのに対し、上村は朋友・阿久悠であり、歌謡曲を超え演歌との親和性を見出していったのにも通じているように思う。
レトロだがどこか軽やかでポップな世界と、ドロドロの情念が澱となって渦巻く演歌。
この対比は、そのまま林静一と上村一夫の色の違いと重なっているのも興味深い点です。
ところで『同棲時代』をネットで調べてたら、こんなスチルが。
TBSがドラマ化してたんですね。
しかもジュリーと梶芽衣子!
映画の由美かおる版より、梶の今日子のほうがなんだかイメージが近いんじゃないかなあ。
由美かおる DVD-BOX
こちらは由美かおるの映画版。
沢田研二は『悪魔のようなあいつ』の主演も務めてるので、案外原作者・上村のリクエストだったのかも。
梶も『修羅雪姫』だったわけだし。
これ観たい。すごく観たい。
DVDあったら欲しい。
ついでなので梶芽衣子が美しい修羅雪姫を。
修羅雪姫 [東宝DVDシネマファンクラブ]
タランティーノが『キル・ビル』でもオマージュを捧げていましたね。
キル・ビル Vol.1 & 2 ツインパック [DVD]
上村原作とはかなり離れたけれど、釈由美子版もけっこう好き。なんといってもアクション監督がドニー師父!!!
修羅雪姫 (初回限定/特別プレミアム版) [DVD]
あのドニー先生の指導に釈ちゃんが耐えた、と想像するだけでもう…殺陣だけでも観る価値は充分あります。
さらについでなんだけど、なんと『修羅雪姫外伝』なんてのもある! (初めて知った)
修羅雪姫・外伝 (キングシリーズ)
修羅雪を巡るネットの旅も閑話休題。
いちおう「今回のために作られたものではない」とのお断りがあったんですが、ロビーの物販ではこんな小冊子も販売されています。
中身はこんなかんじ。
今回の展示の基となる画集も既に出版されています。これは欲しい。
上村一夫 美女解体新書
また、ほぼ同時にヤングコミックでの表紙絵をまとめた一冊もリリース。
ヤングコミック・レジェンド 上村一夫表紙画大全集 (コミック(SGコミックス)(大判漫画イラスト画集))
例えば若い頃はポップスやテクノを聴いてても、歳を取るにつれてだんだん演歌が耳に馴染んでくる…そんな感覚を、自分は上村一夫に感じているのですけどね。
いま、改めて上村一夫と劇画の世界がこうして再評価されつつあるのはほんとうに嬉しいことだと思う。
館を後にし、ちょっと東大キャンパスを散策してみました。
前回の祖父江慎展の記事でもちょっと書いたんですが、自分は昔から夏目漱石が好きで、小説はすべて高校生の時分に読了したほど。
なので、この大学構内にある「三四郎池」にはずっと訪れてみたいと願いつつ、その機会が無いまま現在に至ってしまいました。
かつて共通一次を3度(!)もこの東大本郷キャンパスで受験したんですけどね。
と、いうことで、せっかくなのでその三四郎池を初訪問。
おお、ここがずっと憧れていた三四郎池か。
どれどれ…
・
・
・
なんだか、ひなびた雰囲気。
これが、あの漱石が描いた、三四郎池…
これが、あの「すとれい・しぃぷ」の…?
ほぼ荒れ地ですね…。
まあ、名勝なんてこんなものなのかもしれません。
もとより特別な観光地なわけでもないし。ただのキャンパス内にある溜池ですし、ねえ。
ハア…。
気を取り直して安田講堂でも拝んでいきましょう。
安田講堂も、今はすっかり補修もされ綺麗になりましたが、
自分が受けた共通一次の頃は、まだ安保闘争の傷跡も生々しく、入口は板で封鎖され荒れ放題の状態でした。
こんな威厳を示す存在ではなくなっていた時期だったんですよね。
まさに最高学府のシンボル。
今の補修された姿のほうが、やっぱりいいですね。
弥生美術館から東大構内は休日のいい散歩コースかもしれません。
実はこの日、他の用もあって都営一日券を使ったのもあるんですが、その用事が思ったよりも時間がかかり先の日比谷に到着したのが既に午後2時半。(予定では午前中には終わらせるハズだった)
およそ30分で祖父江慎展を切り上げ、急ぎ弥生美術館へ向かったものの到着したときは午後4時を回っていました。
弥生美術館の閉館時間は午後5時。およそ1時間しか観覧時間がありません。
上村一夫展はなんとか回りきれたものの、結局、併設の竹久夢二のほうはタイムアウト、入れずじまいとなってしまいました。
なので、展示やこの場所もすごく気に入ったこともあり、開催中になんとか再度足を運びたいと思ってます。
閉館後、入口の扉が閉まるとどこからともなくノラ猫が。
ごはんをもらえるのか、ずっと扉に寄り添っていました。
■上村一夫の『ヤングコミック』表紙絵を全260点収録、展覧会も -CINRA.NET
【オマケ】
前々からネットで探してた、上村の描いた『シェルブールの雨傘』のポスター。
今回の探索の途中でようやく画像を発見。